錦を飾るという言葉の語源
金糸などを用いて極めて細かな表現を織り上げた、多彩で精緻で豪華絢爛な絹織物。それが錦織です。
「錦」という字は、その価値が金に等しいことから「金」と「帛」(絹織物)の文字を並べて作られたといわれ、錦の御旗、故郷に錦を飾るといった形容にあるように古来より富の象徴とされ、豪華な織物の代名詞となっています。
この錦織を四代にわたって受け継いでいるのが「龍村光峯」です。代々、正倉院などに伝わる織物や古代裂など、貴重な作品の復元を数多く手がけると共に、素晴らしい錦織物を制作してきました。
錦織は先染紋織物で、織物の設計図にあたる紋意匠図を制作し、あらかじめ糸を染め、機に経糸を張り、これに緯糸を組み合わせていくことで文様を織り出していきます。この織物の工程はとても多く複雑で、絹糸の製造からデザイン、織上がりまでになんと70名もの職人の手を必要とするそうです。
経糸と緯糸が織りなす輝きは、光の角度によって様々な表情を見せるので、糸の組み合わせ、錦糸、ラメ、箔など、それぞれが持っている特性を考えて制作していくので出来上がるまでに数年を要するものもあるそうです。
錦織というオーケストラの指揮者
「蚕がはく糸の断面は、丸ではなくて三角。だから光はプリズムのように微妙に屈折します。これが絹糸の素晴らしさ。錦織は、この絹糸の特製を巧みに利用して、表現を行っています」と語るのは4代目を受け継ぐ龍村周さん。錦織は組織が多重になっているので、仕上がりが立体的で空気と光を含んでキラキラと輝くのだそうです。
織物の世界は高度に専門分業化された世界で、大きく分けて12の工程があり、製糸、糸染め、綜絖、紋意匠、機、織などそれぞれの工程に職人がいます。龍村光峯の仕事は、その職人達をまとめあげ、一つの作品を創り上げること。オーケストラの指揮者が音楽家たちをまとめあげて素晴らしい演奏を生み出すように、多くの職人たちが最高のパフォーマンスを発揮出来るように、気配り目配りしていき、美しい錦織に結実させるのです。
ひとつの製品が生み出されるまでには製糸職人、糸染め職人、紋意匠図職人、箔(金箔、銀箔)職人、さらにそれらの工程に用いられる道具を作る職人と、数えきれないほどの職人が、それぞれの分担である専門の技を極めているのです。
見るから持つ・使う楽しみへ、錦織を身近なものに
龍村光峯4代目の周さんは、龍村家で初めて織り機の高機を使って、自らも錦を織る技術を極めました。伝統工芸からアートの世界へと錦織の可能性を広げ、「錦・光を織る」などの著作もある先代に続いて、伝統の箔技術とは一線を画したアート作品を生み出す一方で、機を織ることがきっかけで技術や道具作りの後継者問題に気づかされたそうです。そこで周さんは、より多くの人に錦織を知ってもらい、その魅力を感じてもらうために工房見学や機織り体験の受入れをはじめ、イベントや講演活動、バッグやアクセサリーなど日常使いの出来る商品の製作を手がけるようになりました。それは額装される美術作品、タペストリー、緞帳などと並んで、より身近に使える製品にすることで、錦織に携わる職人の仕事も広がっていくとの思いなのでしょう。
より多くの人が美術品作りの技とセンスから生まれる小物を愛用することで、大切な日本の文化を守っていくことにもつながっていく。私たちも、作り手の思いを届けることに少しでもお役に立てたらと思っています。
光峯錦織工房(一般財団法人日本伝統織物研究所)
株式会社龍村光峯
〒603-8107 京都市北区紫竹下ノ岸町25
Tel 075-492-7275