多彩な日本の伝統色で彩られた漆皿に手刷木版画で知られる芸艸堂所蔵の動物画が描かれたかわいい豆皿。これは創業180年の老舗の漆器店「井助商店」の人気シリーズです。古来よりヨーロッパでJAPANと称されてきた日本の漆器の伝統に、現代的なデザインやカラーバリエーションを取り入れた新しいブランド「isuke」をデビューさせ、日常使いに楽しめるテーブルウエアやインテリアのニーズを切り拓いてきました。
井助商店は代々、漆塗りの原料である漆を精製して京都の塗師や各地の漆器産地に販売していました。そこから漆をはじめとする塗料全般、漆を接着剤として用いる友禅染材料と扱い商品を広げてきた企業です。プロダクトとしての漆器を扱い始めたのは約50年ほど前、そこから柄や形を職人にオーダーするプロデュース的な仕事を続けてきました。
匠の技×デザインの力
「これまで漆器の箱と言えば、昔ながらの文箱くらいしかなかった。暮らしを楽しむ若い女性を中心に提案したい」と語るのは井助商店の代表取締役・沖野俊之さん。井助商店の現在の商品企画の核となっている「isuke」の誕生は、実は京都市の海外展開のプロジェクトがきっかけだったといいます。
ニューヨークやパリ、上海などの見本市で京都の伝統工芸品を紹介するという趣旨の元にデザイナーやアドバイザーと商品開発を行い、現地での手応えが次の商品開発につながる形でラインナップが増えていったそうです。
使い方やコストも発想を変えて新しく
新しい市場や商品を考えるときには価格も大きな要因になるといいます。昔ながらの木材から挽きだした器に漆を塗り重ねたものは美しく独特のツヤが魅力ですが、かなり高価なものになってしまいます。さらに豪華な蒔絵など加飾したものは美術品クラスといえる価値と価格となり、手軽に買えるものではありません。井助商店のブランドでは木粉と樹脂の成型品や産地にあるものからチョイスして、用途を変えたり、使い方も含めて新たな息吹を吹き込んでいます。
コンセプトはシンプルに表現する
「isuke」の特徴の一つにポップでカラフルな色彩があります。従来の漆器に比べて色彩の明るさやバリエーションが豊富で、現代の生活スタイルにマッチし、女性からもカワイイと好評の所以です。沖野社長はモノづくりに於いてシンプルを基本にしているといいます。ひとつのものにいろいろな要素があるとわかりづらいので、木の良さを見せるとか、蒔絵の美しさを見せるとか、一つのアイテムにいろいろな要素を入れないようにしているそうです。
「isuke」はエントリーモデル
長らく伝統的な漆器を扱ってきた井助商店は、今日の市場を意識する中で木粉と樹脂といった素材やウレタン塗りなど、これまで本物ではないとされてきた素材や技法も積極的に取り入れています。これは漆器を知らない若い人たちにも、漆器を使ってみる入り口になればという意識があるといいます。「isuke」を通じて漆を知り、伝統的な木や色彩、漆独自の良さに目覚める人がいればいいのではないかという考え方です。これは海外での展開でも同様だといいます。
日本の漆文化を知らない人々にエントリーモデルとして「isuke」に触れてもらうことで、伝統を受け継いだ漆器に目を向けてもらう機会を作っていけるというわけです。生活スタイルや価値観が変わっていく中で、伝統工芸の課題である守り続けるものと変わっていくもの、いわば過去を未来へつなげるものとしての「今」のひとつのカタチを井助商店は提案しているといえるでしょう。
株式会社井助商店
住所 : 〒600-8066 京都市下京区柳馬場通五条上る柏屋町344番地
電話 : 075-361-5281