漆の伝統をつなぐプロデューサー – 京ものストア
漆の伝統をつなぐプロデューサー
2020.12.25

繊細な京漆器の伝統を伝える

日本の伝統工芸を代表する漆器。欧米でも「JAPAN」と称されるように日本の文化と美を象徴するものといえます。漆器の歴史は古く、縄文時代の遺跡から漆を施した装飾品が出土しているほどです。飛鳥時代には寺院や仏具に用いられ、奈良時代の正倉院宝物、平安時代の中尊寺金色堂など、各地で建築や装飾に使われていた様子がうかがえます。鎌倉時代になると貴族や僧侶の食器や調度、武士の鎧兜にも用いられるようになります。安土桃山時代には蒔絵調度が盛んになり、JAPANの呼称の由来となる海外への輸出品としての需要が高まりました。

江戸時代には生活道具として浸透すると共に各地に特色ある漆器が登場し、今に続く伝統工芸として受け継がれています。

京都では宮廷時代はもとより茶の湯の文化と共に発展し、近代でも茶道、華道等のお家元、有名料亭の求めに応えて繊細で洗練された漆器が生産されてきました。京漆器の特徴は他の産地よりも生地が薄く繊細感があるといわれています。日本の美意識のシンボルでありながら、多くの伝産品と同様に市場の変化から高価で特別な存在となっている漆器は今、どこへ向かおうとしているのでしょうか。

1807年創業の京漆器の老舗「漆器のアソベ」を訪ねて、8代目社長の遊部尋志氏にお話を伺いました。

「京漆器は昔より、宮中や茶道、華道のお家元らの高い美意識の要求に応えて磨かれて来た伝統に支えられています。近年でも有名料亭にお使いいただくことで、雅で洗練された漆器を生み出してきました。昔は木地から加飾まですべての工程を京都で行っていましたが、今では産地の特徴を生かした技術を組み合わせて製品づくりすることもあります。」 漆器店はお客様の要望を伺いながらものづくりを行う、いわばプロデューサー的な役割を担っているという遊部氏。京漆器は下地の漆の割合が多いため、美しい仕上がりと堅牢さが発揮される反面、コストと硬化時間がかかることから高価になるという性格があり、どうしても限られたお客様のための高級品という位置づけになってきました。

オンラインでも漆器は売れる ?

アソベでは自社のwebサイトで商品を紹介する以外にも、百貨店のオンラインストアにも出品しています。繊細で高価格の漆器がweb通販で売れるものなのでしょうか。「webサイトをご覧いただいた方からのお電話をよく頂戴します。最近は百貨店の工芸売り場の面積が減っているので、漆器をお求めになりたいお客様も直接多くの品をご覧になる機会が減っています。そこでお電話をいただいてカタログをお送りしたり、画像をお送りする場合もあります。こういうお客様は購入する目的でご連絡をいただくので、8割方は成約に至りますね」と遊部氏。これまで百貨店を中心に培ってきた信用があり、お客様がアソベの名を知っているから、こうしたスタイルが可能になるのでしょう。

「弊社ではアフターサービスにはすべて対応していますので、その信頼関係があるからできることでしょうね。お客様に対してやりすぎはないと思って接していますので、ご満足いただけているのかと思います。ご家庭のものや御料理屋さんのお椀でも最近は修理させていただくことが多いです。お椀は直すことでさらに強くなりますので大切な器を一生お使いいただくことができます」

京都の職人技が光るエントリーモデル

「私共が京ものストアに出させていただいているのは低価格でも京都の職人の手が入っているものです。」という遊部氏。もともと京漆器は刷毛目を残さない高度な技術を要する真塗や蒔絵が特徴といわれ、美術的洗練を追求した最高級の技を競ってきました。そこで他産地の木地に京都の職人が漆を塗ったり、蒔絵を施したりと仕上げの部分には京都の技と感性を発揮したものが作られてきた歴史があります。漆器は工程が分業化され、それぞれの職人が技を磨くことで発展してきた経緯があるので、それぞれの特性を生かしたり、経済的な面からも他産地とのコラボレーションが盛んに行われてきたのです。京ものストアにアソベが出品しているものは、高価値の京漆器のエッセンスを手ごろな価格で楽しめるエントリーモデルとも呼べるものです。

日本の代表的なメーカーのボールペンに蒔絵を施したボールペンもそのひとつ。1本1本を熟練の蒔絵師が手しごとで菊の模様を描いていきます。

また、若手の女性蒔絵師を起用したボンボン入れは、木質樹脂に漆塗装を施した器に花嫁のベールを連想させることからその名が付いたブライダルベールの花を描いたもの。蒔絵師さんからの提案で生まれたという優しい色合いが魅力です。

ボールペン 菊蒔絵
日本製のボールペンに、菊をモチーフにした蒔絵を施しました。
京都の蒔絵師が1本ずつ丁寧に仕上げています。
商品明細:蒔絵入りボールペン 1本  材質・仕様 :真鍮、京蒔絵

購入はこちら

ボンボン入れ ブライダルベール
蒔絵師がワンポイントでお花を入れしました。菓子器やいろいろな用途にお使いいただけます。   
商品明細 : ボンボン入れブライダルベール 材質・仕様 フェノール樹脂・漆塗装・京漆絵

購入はこちら

昔ながらの生活文化を今に伝える漆器は、生活スタイルの変化もあり、高付加価値の市場が縮小傾向にあることは否めません。アソベでは京都の逸品を紹介する百貨店の催事を中心に全国の顧客とのつながりを深めていくという従来の手法だけでなく、東京の美術ギャラリーの作家との協業や従来にはなかった金属に漆塗りを施したタンブラーなど、他分野、他産地とのコラボレーションにも積極的に取り組んでいるといいます。

漆を知り尽くしたプロデューサーが、新たな漆器ファンの獲得へこれからどんな商品を作り出していくのか楽しみです。

漆器のアソベ 本店ショールーム

京都市下京区東洞院通四条下ル
TEL:075-344-5333
営業時間:10:00~18:00
定休日:毎週水曜日 年末年始

https://asobe.co.jp/