京町家から発信する金属工芸の未来 – 京ものストア
京町家から発信する金属工芸の未来
2021.03.01

金工の匠が設立した若手職人のショップ

茶道具、香道具、仏具、装飾品、引手などを鍛金、彫金といった技を用いて制作する金属工芸の匠。京錺・竹影堂は寛政年代(江戸時代中期)から七代続く錺匠であり、当主の中村佳永氏は画廊で美術工芸品を発表する一方で、金工品を身近に使ってもらえるものにしようとアンテナショップ“かざりや鐐”を2004年に設立しました。この店では若い職人たちの感性で作られた銀のアクセサリーが並び、京町家造りの店舗とオンライン販売の双方に力を入れています。

ここで企画・製作・WEBを担当する古川雅恵さんは京都伝統工芸大学校で金属工芸を学び、竹影堂の先代の指導を受けた後に入社しました。

「同期の子が先に職人として就職が決まっていたので、私には他のいろいろなこともして欲しいという条件で入社しました。でもスタッフもまだ少なかったので、できることはみんなでやるという感じで、製作にも携わってきました。お店の商品も最初の頃はケータイ用の根付がメインでした。その後、かんざしや栞、ぐい呑みなどいろいろとチャレンジしてきましたが、やはりアクセサリーがよく売れるのでだんだんと比重が増えてきたのです」 “かざりや鐐”では月に一度ミーティングを行って新作のアイデアや製作、販売動向などを話し合うそうです。「店舗にしてもオンラインにしても統計は取りにくいですね。なぜか菓子切りがよく売れた時期があったり、観光のお客様も波があるので、今はこれが売れ筋というのがわかりにくいですね。オンラインで安定して売れているのは栞。特に猫物語というシリーズは人気があります」

猫の栞 製作風景
純銀の板を切り抜き、一匹ずつ金槌で線模様を付けていきます。

ネコのモチーフはお客様にもスタッフにも人気

“かざりや鐐”はその名が上質な銀を意味する“南鐐”という言葉から付けられたように、主に銀製品を中心としたものづくりを行っています。銀は侘び寂びに通じる、金よりも落ち着いた控えめな美しさと時間と共に味わいのある色に変わって行く楽しみがあるといいます。「銀が主流なのですが、デザインによっては他の金属も使います。赤を使いたくて銅を選んだりします。」という古川さんは日頃からアンテナを張っていて、街で雑貨を見ていても金属で作ってみたら面白くなりそう、これに銀や銅を使ったらなどと思い描くそうです。 「お店で人気のあるネコは自分でも好きなのでデザインを描く時にカワイイと思いながら描けますし、いろんな表情をするのでモチーフになりやすいですね。」


銀製 仔猫 根付
「足の裏の肉球まで作り込んでいるので細部を見て欲しい」と古川さんが語る仔猫の根付。

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自分が考案した商品がお客様に選ばれたり、売れたときは「ヨッシャー」と喜んでしまうという古川さん。新しい商品のアイデアはスタッフだけでなく外注している職人さんやお店の販売を担当するスタッフからも出てくるそうですが、いつに新商品を出すと決めているわけではなく不定期。「昨年はコロナ渦でほとんど中止になりましが、月に一度位の間隔で百貨店の京都展に出展していますので、その告知用の撮影で新商品を求められることがあるので、それにあわせて新作を作ることも多いです」という古川さん。「夏場になると工房には蚊が多いので、蚊取り線香を焚くのですが、その線香立てを見ている時にもう少しかわいい物にならないかーー」と思ったのがきっかけでネコ型の線香立てが生まれました。

蚊取り猫
蚊取り線香の器具を見ているときに考案したという蚊取り線香立て。台にネコの足跡や魚が彫られているなど細部にも凝っている。

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“かざりや鐐”の店頭での販売は3人の女性スタッフがローテーションを組んで、店舗と催事を回しています。販売担当の高瀬さんに売れ筋を伺うと、「日本の方にはペンダントになったものがよく出ます。中国からのお客様が多かった頃は、竹をモチーフにしたバングルや鈴がよく出ました」とのこと。店での接客から生まれたアイデアも新商品に取り入れられています。

高瀬さんのアイデアで生まれたメガネホルダー。ピンバッチ仕様でアクセを兼ねた実用性が人気。
純銀 髪飾り(ヘアゴム)
かんざしは付ける人を選んでしまうので、だれにでも使ってもらえるヘアアクセをと考案されたヘアゴム。

伝統を広げるビジネスモデルに

「金属工芸は作品が何千年と残る可能性があります。また打てば鎚跡が残り、磨けば光る。自分の行ったことがすべて現れ、それが未来に受け継がれていくのは、本当に魅力的です。」とは師匠であり、今も後継者育成のために専門学校で特任教授を務める中村佳永氏の弁。古川さんも“かざりや鐐”は“竹影堂”という本筋があり、より多くの人に金属工芸の魅力を伝えていくメディアという意識があるようです。「金工の道はとても奥深いと思いますね。例えば薬罐ひとつでも形にするだけでしたら5年位修行を積めばできますが、それで一人前かといわれるとそうじゃない。売れるものが創れたら職人と呼べるのかというとちょっと違う気もします。言葉で言えない伝統の奥深さがあるんです。工房の若い職人たちもその本筋を学びながら、かざりや鐐の商品も楽しみながら創ってくれていると思っています」

古川さんが入社した当時の竹影堂は、茶道具や香道具、装飾品などを受注生産する工房で、他には企業の記念品などが主たる商品でした。

「お店がスタートして驚いたのは、個人の方からのオーダーや修理の依頼が増えたことです。それまでどこに頼んでいいかわからなかったのでしょうね。お店という窓口できてアプローチしやすくなったというか、気軽に相談できるのがいいのだと思います。ウチのオンライン販売は自社のECサイトと老舗モールという京都の店に絞ったサイト、あと商品をいくつか扱っていただいているサイトはありますが、もっと知名度を上げていきたいと思っています」という古川さん。 “かざりや鐐”では金属工芸をより多くの人に楽しんでもらえるよう工房見学や彫金体験も行っています。販路開拓のアクセサリーショップとファンづくりの体験の提供。伝統工芸の新たなビジネスモデルにいち早くチャレンジしてきた金工ショップのこれからが楽しみです。

かざりや鐐

京都市中京区押小路通麩屋町西入橘町621

TEL  :  075-231-3658

定休日 : お盆、年末年始

https://www.ryo-kazariya.com/