京の文化に育まれた 竹を暮らしへつなぐ – 京ものストア
京の文化に育まれた 竹を暮らしへつなぐ
2023.12.01

株式会社 御池

コーヒー好きに響いた竹のドリッパー

 豆や焙煎にこだわり、一杯ずつていねいにハンドドリップで淹れるコーヒーがブームです。専門店だけでなく自宅でもこうしたコーヒーを楽しむ人たちの間でひそかにブームになっているのが竹細工のコーヒードリッパー。蕎麦ざるの技術を応用したとされる竹のドリッパーは、フィルターペーパーを使うのですが、細かな編み目からコーヒーがゆっくりと時間をかけて抽出されるので渋みや雑味のないまろやかな味になるそうです。職人の技を現代に活用した商品とメディアに紹介されたこともあり、人気商品となったのだそうです。

 竹製のコーヒードリッパーにはぺーバーフィルターを使わずに竹だけで抽出するものなど、いろいろなタイプが種々の工房から発売されていますが、その1つが独特のツヤと風雅な趣のある京都の黒竹を使った(株)御池の竹製コーヒードリッパーです。代表の御池真也さんに伺うと「長野の戸隠に行ったときに売られているのを見て面白いと思って、帰ってからすぐに職人と相談しながら作ってみました。試行錯誤はありましたが販売してみると好評で、弊社のHPでもお薦め商品として掲載しています」。

竹製コーヒードリッパー
黒い幹に緑の葉がモダンな印象で庭のシンボルツリーとして人気の黒竹を使ったコーヒードリッパー。竹ひごを伝わりゆっくりと香り高いコーヒーを淹れることができます。

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竹の文化は日本の美意識とともに

 日本中に竹林や竹の産業がありますが、京都は竹の本場といわれてきました。京都の盆地という地形や蒸し暑い夏と底冷えする冬の気候という自然条件が、堅くて艶のある良質の真竹の生育に適しているという説もありますが、宮廷建築に使われた簾や町家の犬矢来、庭園の竹垣、さらには茶の湯や生け花の道具といった洗練を求める文化に応えてきた技術がその理由ではないでしょうか。京銘竹という名も、こうした文化を支える質の良い竹づくりの追求から生まれたものといえるでしょう。

 竹は切る、割る、削る、曲げる、編むことで様々な形に変化します。丸く中空である竹を割って竹ヒゴをつくり、それを編むことで籠ができます。このような竹を加工する技術は、茶道が発達した桃山時代のころから京都で洗練され今日まで伝統の技が受け継がれています。また建材としての竹は装飾物として見えるところだけでなく、土壁の中にも使用されていました。

 このように幅広い分野で需要のあった京銘竹を提供してきたのが(株)御池です。「弊社は竹工芸の中でも主に建材を中心にやってきましたが、父の代には物産協会のメンバーになり竹籠や照明、食器など雑貨を百貨店の京都展で販売するようになりました。もちろん全体に占める割合は小さいですが、日常生活で竹製品に親しんでいただくことは竹の文化を知ってもらうにも必要なことだと思っています。また竹籠を編む体験学習を行ったり、竹と親しむイベントにも参加しています」という御池さんは、他の伝統産業同様に竹材の今後は決して明るいものでは無いといいます。

直営ショップ「竹小路」
社屋に併設しているショップでは、花籠はじめ多彩な竹製の生活用品を販売している。

竹のビジネスモデルの変化

 和の文化や装飾に欠かせない素材であり技術である竹工芸ですが、生活スタイルの変化と共に、住宅や生活用品としての需要は減少していますし、産業としての岐路を迎えているようです。

 「京都の竹材業でいうと京都竹工芸品協同組合と弊社が加盟する京都竹材商業協同組合があります。私が家業を継いだときは30社ほどあって竹の競り市も活発に行われていましたが、今では20社ほどに減っていますし、もっと深刻なのは原材料の竹を伐る人が減っていることです。特にコロナ禍以降はどの分野でも竹の調達が難しくなっていると聞きます」という御池さんによれば、茶の湯や生け花、造園などの伝統的なものは残るけれど、先細り感は否めないそうです。   

 御池さんは住宅や茶室などの和風空間だけでなく、店舗など商業施設での竹を用いた装飾を手がけてきました。工務店や設計事務所からのオーダーに応えて、伝統的な設えからモダンなデザインまで幅広く対応し、コロナ禍前はインバウンド向けの民泊なども多く手がけたといいます。けれども現状では竹材を扱う事業者は大きな転換を迫られるのではないかと危惧しています。「我々の業界でいうと竹を伐る生産者が減るというのは需要が減っていることの表れでもあり、卸の事業者も減っていきますから、これからは自社で竹を伐り、加工して販売する。1社ですべてをやる時代になるのではないかでしょうか」。竹の生産者が減ることは竹林の維持という点から見ても放置竹林の増加につながり、環境面での悪影響が懸念されます。今でも市内の竹林の約4割が放置されているといいますから、今後の竹材業の行方は産業界だけの問題ではありません。

竹のパーテーション
茶室や住宅だけでなく商空間にも魅力を発揮する竹のインテリア

竹が魅せる生活空間の可能性

 京都では新たに建設されるラグジュアリーホテルが伝統工芸や和の設えを積極的に取り入れたり、新たな生活グッズの開発やアートとして竹工芸に取り組む動きもありますが、産業としての未来は不透明です。けれども伝統文化と共に歩む一方で、自然素材特有の性質、栽培時や焼却処分に環境負荷の少ないサスティナブルな素材というメリット、京都の文化価値、これらを背景にしたものづくりから未来への展望が開けるのではないかという期待もあります。

 因みに御池さんがコーヒードリッパーを見つけた戸隠は、信州戸隠竹細工といわれる長野の産地ですが、竹工芸の技術は日本各地で進化し、生活用具として浸透してきました。いずれの土地でも生活スタイルの変化に伴う盛衰があり、次代に残るものづくりへの試行錯誤が行われています。ふと見かけたコーヒードリッパーに御池さんのアンテナが反応したように、工芸家の営みからヒット商品が生まれることもあります。生活グッズはもとよりインテリアやイベントのディスプレーなど和の演出材として、また自然に息吹を感じさせる素材として竹はまだまだ可能性のあるものだと思います。美意識に訴える文化に育まれた竹がさらに進化してどんな姿をみせてくれるのか、御池さんの竹材プロデューサーとしての今後に期待したいと思います。

株式会社 御池

〒607-8322 京都市山科区川田清水焼団地町7番1

075-584-4555

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