LinNe STUDIO /南條工房
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伝統の音色をスタイリッシュに更新するLinNe
仏具のおりんや祇園祭など各地の祭に用いられる囃子鉦を製造して創業200余年という歴史を持つ南條工房。正倉院宝物にも用いられた銅と錫の合金の佐波理を、独自の配合で美しい音色に磨き上げた伝統を持つ工房の7代目で、鳴物鋳物師という肩書きの京もの認定工芸士の南條和哉さんは、従来の神仏具という分野とは異なる新たなブランドLinNeを2019年に立ち上げ、2023年5月にはショップと工房を併設したLinNe STUDIOを新設しました。
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工房の隣に設けた2F建てのショールーム。自然光を取り込んだ吹き抜けの店内はおりんの音がよく響く心地いい空間。
LinNeはおりんを小さな鈴型にしたもので、デザインもオシャレですが音色に惹かれたシンセサイザー・プログラマーとして名高い松武秀樹氏がプロデュースした楽曲に取り入れたり、アーティストがインスタレーションに用いたりと、ジャンルを超えて注目を集めました。昨年逝去した坂本龍一氏が愛用しているというコメントが掲載(婦人画報2022年3月号)されたこともあり、京都で開催された音・映像・光のインスタレーション展“AMBIENT KYOTO 2023”のギャラリーショップに出品した特製おりんLinNe Chibi AMBIENT KYOTOは完売するほどの人気となりました。
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坂本龍一氏は婦人画報誌に“おりんは何種類か持っていて、音色のちがいをたのしんでいる”(2022年3月号)、“一つ一つ異なる音階をもつおりんは特に気に入っていて、小さな木箱に入れていつも手の届く場所に置いている”(2023年3月号)とコメントを残している。
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LinNeへの共感の発信がファンを広げる
南條さんのLinNeを通じた活動は、サウンドアーティストとのコラボレーションやアートイベントへの参加、百貨店や地方のショップでのポップアップという販売方法で従来とは異なる広がりを生み出しました。セラピストの村木悦子さんとの出会いもそのひとつでした。「 セラピストとして癒しを追求し続けた結果、音で人を癒す事に可能性を感じた頃、南條工房さんのおりんと出会い、澄んだ音色に心を掴まれました 」という村木さんは18年余りのセラピスト歴を持ち、コロナ禍で人に触れずに癒す方法を試行する中でおりんと出会い、おりんを楽器のように演奏するおりん奏者を志したといいます。「京都生まれの私が、京都のおりんを使って、着物を着て演奏するのはとても調和がとれていると感じました。今では私が奏でるおりんの音色に包まれると、深いリラックス効果と忙しい脳内が休まり心整う時間になるとお声をいただくようになり、演奏活動の場も広がっています」といいます。
自然が生み出す音とおりんの音色の重なりが幻想的な音世界を生みだす日本庭園での演奏をはじめ、茶室やホテルイベントでの空間演出と活動の場が広がっているという村木さん。南條さんの協力を得て活動をはじめた村木さんの演奏活動やSNSでの発信は、南條工房にとっても大きな役割を担っているそうです。「LinNeをスタートさせたときは用途を決めたくなくて、使う人が自由に楽しんで欲しいという思いでした。使う人がそれぞれの楽しみ方を発信してくれれば、自分たちがああして欲しいこうして欲しいというよりもずっと伝わると思います。自分たちの発信はすでにウチの商品を気に入っていただいた人に向けてのものになるので、村木さんのようにウチのものを気に入って使ってくれる方と一緒にやっていきたいと思っています」という南條さん。村木さんの演奏の場でおりんの音色に触れた人々が、音の広がりに心地よさを感じたり、音色に興味を持つとき、おりんは伝統的な仏具という記号から解き放たれて新たな価値を持つものになります。そして村木さんの活動が広がるほどに、おりんの魅力も伝えられていくというわけです。
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おりんの澄み切った音色で場の空気が整った中、心穏やかに非日常な極上時間を過ごしていただきたいと、2020年よりおりん演奏活動を始めたという村木さん。幽玄で幻想的な空間演出や地域活性化、海外への発信も行っていきたいと意欲的に活動している。
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アート作品を中心に制作を行うメディアラボLaatry、京指物の技術で木製家具の製作を行うBench Work Tatenui、南條工房のLinNeの3社で制作されたSynclee(シンクリー)。環境に溶け込む音のインテリアとして、京都の伝統技術とサウンド・アートから生まれたプロダクトで受注生産されている。
特化したモノづくりで人を呼ぶ工房へ
「おりんは仏具の中では付属品という位置付けでしたから、音を聴いて買うという人は一部の方だと思います 。けれども工房見学に来られた方に佐波理おりんの音を聴いてもらうと、皆さんがいい音だといって聴き比べたり、好きな音を選んだりするようになります」という南條さんは、音を聴いてもらって納得して買ってもらうためには作業音に囲まれた工房ではなく、おりんの音に集中できる空間が必要だと思ったそうです。
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防音になっているスタジオ内の試聴室。1〜2時間も籠もって何種類ものおりんを聴き比べる人もいるという。
「工房のある宇治は平等院や宇治茶などの観光資源があり、観光客が多く訪れるエリアですから、小売りと観光をテーマに事業計画を作っていたのですが、スタジオができてみるとウチが目的で来られているのが現状です。基本、スタジオは予約制ですから観光のついでにふらりと寄ることができないというのもありますが、来ていただくお客様はおりんの音に向き合って、ときには1〜2時間をかけて音を聴き比べて選んで買っていかれます」と観光と伝統産業をテーマにしたトークイベントでLinNeスタジオでの取り組みを紹介していた南條さん。実際にスタジオを訪れる人はTVや雑誌、SNSなどのメディアあるいは京都市内のショップで見て興味を持って来ることが多いといいます。年代は30代から年配の方までと広く、海外からの観光客も少なくないとのこと。トークイベントでは現在行っているファクトリーツアーや宇治の朝日焼や昇苑くみひもなど近隣の工房とも連携して、次は観光の目的となるような取り組みも行っていきたいと語っていましたが、一方で観光につながるのは南條工房でしかできないモノづくりではないかともいいます。「私は作ることが仕事なので、自分しかつくれないもの。ここにしかないものをつくることが、このスタジオに来る人を増やすことにつながると思っています」という南條さん。今までは工房が宇治にあるということだけで、地域のことは考えていなかったそうですが、スタジオができたことで地域への貢献を考えるきっかけになったといいます。「工房に来られた方から、宇治に行くけど美味しいお店を教えて欲しいと訪ねられることもありますし、朝日焼とはお客様の年齢層が近いのでお互いにお客様を紹介しあう関係になっています。LinNeの紐をつくってもらっている昇苑くみひもさんやスタジオに置いている作家さんの作品を紹介することもありますし、お客様とのコミュニケーションのなかで地域や工房の横のつながりが広がっていけばいいなと考えています」。
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音色のオーダーメイド工房を目指したい
「おりんやLinNeは必要とする人が限られている商品なので、そのなかでビジネスを組み立てていくことを考えています。おりん作りの工程は音色づくりなので、モノをつくる職人というよりも音色をつくる職人ですから、音をオーダーメイドできる工房にしていきたいですね。○○ヘルツのおりんをつくって欲しいというリクエストもありますし、音色をイメージで語る人にも対応して音色をつくることができる工房でありたいと思っています」という南條さんは、トークイベントなどにも声がかかれば、時間の許す限り参加するようにしているそうです。「おりんを仏具としか見ていない人に認知してもらうためにも、また瞑想やリラクゼーションのカテゴリーで知っていただいた人にも、とにかく音を聴いてもらう機会を増やすことがウチの商品を広げていく方法だと思っているので、いろいろなイベントに呼んでいただくのは貴重な機会だと思っています」。
これまで地方でのポップアップでも成果を積み上げてきたことから、今では自分たちが出向かなくても販売してもらえる関係を築くことができたという南條さん。LinNe 開発の基本コンセプトだった“音色を楽しむ”ことにこだわり、新たなファン層と音空間というステージを獲得してきた実績から生まれる次の一歩を見守っていきたいと思います。
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スタジオの一角にあるガラス越しに作業が見学できるオープンラボで、おりんを轆轤(ろくろ)に固定して仕上げ削りをする工程を実演する南條さん。削りと磨きを何度も繰り返し、焼き入れと仕上げを経て美しい音色と輝きが生まれるという。
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南條工房/LinNe STUDIO
京都府宇治市槙島町千足42-2
Tel/Fax 0774-22-2181