京都発祥の金箔工芸に新たな付加価値を – 京ものストア
京都発祥の金箔工芸に新たな付加価値を
2024.02.01

五明金箔工芸

 世界で最も薄く美しいといわれるユネスコ無形遺産にも登録された縁付金箔。この金箔を用いて仏像や台座、ティファニーNY店の竹籠バッグ、さらにはゴジラやフィギュアにも金箔加工を施すなど、先進的な試みで知られる五明金箔工芸が、工房を構える京都駅前門前町に縁付金箔専門店をオープンしました。

箔打ち石との出会いから生まれた専門店

 「もともと2014年に経営革新計画企業の認定を受けた事業計画の中で5年以内に唯一実現できなかったのがショールームを作るということでした」と語るのは五明金箔工芸4代目の五明久さん。五明金箔工芸はこれまでも京都市役所の市章やコンベンションホールの壁面陶板、祇園祭の鉾頭、日本橋三越本店の天女像など多彩な金箔加工を手がけてきましたが、中心となってきたのは仏像や台座といった仏具関係の仕事です。けれども仏具業界も他の伝統産業と同様に生活スタイルの変化などから転換期にあり、市場の縮小化という問題を抱えています。これまで仏具業界には限界があるので、それが現実のものとなる前に次を考える必要があったという久さんに思いがけない出会いが訪れました。「金沢で生産されている縁付け金箔がユネスコの無形文化遺産に登録されたのは2020年ですが、元々この手作りの金箔は京都が発祥といわれています。平安京の頃には金箔を打つ職人と金箔を貼る職人がいて、仏師の周りに集まっていたといわれています。私共の工房からも近い今の七条仏所跡がある辺りのようです。金箔づくりは京都から日野を経て金沢に移っていったとされていますが、文献以外にそれを証明するものはありませんでした。ところが3年前に工房の奥に置かれていた石を動かす際に父に聞いたところ祖父が譲り受けた箔打ち石だということがわかったのです。こんな身近なところに京都で金箔がつくられていた証拠があったというのは私にとって運命的なものだと思いました。そこで元々のショールームという発想が、縁付金箔発祥の京都だから意味がある専門店という構想として動き出したのです」。

箔打ち石
五明金箔工芸の二代目が近所の金箔職人から譲り受けたという箔打ち石。縁付金箔は箔打ち紙と呼ばれる和紙の間に薄く延ばした金を挟んで、さらに打ち延ばしてつくりますが、昔はこの石の平らな部分に置いて打ち延ばしていたそうです。

 縁付金箔を貼る職人の作業を見ることができて、作り手が製品を販売する専門店という構想は、京都府の事業再構築補助金にも採択され、2023年の5月には改装工事も完了したのですが、そこに直面したのが木工品の仕入れ先である山中漆器の挽物木地メーカーの苦境でした。コロナ禍を経ての離職や漆の高騰、ケヤキ材の不足から五明さんの使っていた繊細で美しい木目の漆器の入手が困難になったのです。予定していたシリーズ作品やオーダー対応の遅れはありながらも8月にはプレオープンし、まだ充分な作品が揃っていないといいますが金箔押しの職人技を間近に見ながら作品も購入できる専門店となっています。

縁付金箔専門店
ガラス越しに職人技を体感しながら作品を買うことの出来る専門店となった五明金箔工芸。工房には箔打ち石がガラスケースに入れられて展示されている。
最高級うすびきカップ
欅素材の美しい木目が、金箔を貼りつけても鮮やかに浮かびあがるうすびきのカップ。縁付け純金箔を2回漆で貼り付け、食品用のコーティングを施している。

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最高級「凛ー黄金大皿30㎝(M)ー」
純金箔を施した最高の食卓を彩る眩しいばかり黄金大皿。漆器に日本の純金箔を2回貼り付け、表面を薄く食品用コーティング加工。木目が金箔の下から浮かび上がる日本の純金箔だからこそ実現できる最高の作品。

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金箔押し体験が新事業に結実

 五明さんは専門店の開設と同時に縁付け金箔押し体験工房もリニューアルしました。京都の伝統工芸界が工房見学や制作体験をはじめたのは最近ですが、五明さんは1999年からいち早く体験講座をスタートしています。その背景には修学旅行生が多く訪れる京都の観光メニューに必要ではないかという読みがあったといいます。「修学旅行生に伝統工芸の体験がマッチするという確信がありました。初年度にJTBの添乗員の方を対象に体験講座を提供したところ、参加していただいた皆さんに喜んでいただけて1年目に30校の申込がありました。そこからずっと続けてきましたし、コロナ禍での中断はありましたがリニューアルと同時に修学旅行生に加えて大人向けにレベルアップしたコースも用意しました。また作る楽しみだけでなく持って帰った際にも、おしゃれ飾っていただけるようにとオリジナルのケースを特別な技術を持つ貼り箱メーカーさんと共同開発しました。これまでも体験して完成した際にはすごく喜んでいただいたり、感動していただいたりしていたのですが、どこに置くかどう飾るかを悩む方もいらっしゃったようで、このケースならインスタ映えもすると満足していただいています」。最近ではLAのジャパンハウスにある“和技WAZA”から出展の継続と体験の依頼があったという五明さん。「実は昨年も依頼がありまして、その時は時間を割けずにお話しをいただいた行政の方に指導して代わりに体験講座を行ってもらって盛況だったのですが、“本物の技を見せて欲しい。そうすればアメリカ人にも金箔工芸品のすばらしさが伝わる”と熱心なお誘いを受けています。金色に輝く作品だけではわからない技を知ってもらうことで、次の可能性が生まれてくるのではと私も期待するところがあります」

縁付け金箔押し体験
シンプルからハイグレードまでいろいろなコースが用意された体験メニュー。自分のデザインでオリジナルの作品を作ることができるので、修学旅行生から訪日外国人まで幅広い人気を博している。多くの実績から工房以外でも開催できるのが強みとなっている。

金箔工芸が生む付加価値

 「日頃から体験で作品が出来上がったときのお客様の高揚感はスゴイと感じています」という五明さんに金の魅力とは何かを問うと「それは存在することでモチベーションを上げることができる。そして無限の可能性を秘めていることだと思います。金の価格は今すごく上がっていますね、それだけ人を惹きつける魅力を持っているわけですし、金は不変色で最も熱伝導率の高い物質で、いろいろと変化する可能性があると思っています」という五明さんは2019年に一棟貸しの京町家の黄金の茶室を手がけました。インバウンド向けに日本の伝統文化を体験してもらうというコンセプトの宿に設えられた金箔貼りの茶室は桃山時代の絢爛の美を再現したものであり、金の魅力が世界共通のものである証でしょう。

 「私はこれに金箔を貼って欲しいという依頼を受けて皆さんに提供するわけですが、真逆に金箔が貼ってあることで“これが欲しい”といっていただける作品を届けたいと思っています」という五明さんはiphoneケースを例に金箔のケースがあるからこのタイプを買おうとか、金箔を貼ったフィギュアだから欲しいとか、ひとつのモノが金箔を貼ることで新たな付加価値を持つ作品になるのではないかと展望しています。例え大量生産の工業製品でも、金箔工芸との出会いで唯一無二のプロダクトに生まれ変わる可能性があるという五明さんですが、そのためには金箔を用いる素材の研究が欠かせません。元来は漆の硬化で金箔を定着させる工芸ですが、金属や樹脂など様々な素材に金箔を貼るには接着する物質の試行錯誤が必要になります。1万分の1ミリという薄さの金箔の美しさは素材に塗った漆の拭き上げ具合で決まるといわれる金箔工芸において、様々な素材を生かした金箔押しには技術とともに豊富な経験が必要でしょう。かつてより“金箔で困ったときは五明さんへ”といわれてきたという好奇心旺盛で多種多様な実績を持つ五明金箔工芸。手作りの縁付金箔の光沢を生かす箔押しという技が生み出すマジックが何に結実していくのか楽しみです。

箔押し面を均等に仕上げ美しい艶を出す払い上げという工程を行う五明久さん。工房ではこれらの匠の技を間近で見ることができる。

五明金箔工芸の以前の記事はこちら

昔も今も、人は黄金に魅せられる

五明金箔工芸プロモーション動画

縁付金箔専門店では黄金のぐい呑みと併せて京都や愛媛の地酒も販売している

五明金箔工芸

〒600-8306

京都市下京区新町通正面下る平野町784番地

TEL 075-371-1880

http://www.gomei.ne.jp/